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その監視は本当に効率的?監視体制の一元化で変わる現場のリアル

- はじめに
- よくある課題:分断された監視が生む見えないリスク
- 解決アプローチ:監視体制の一元化が"判断力"を取り戻す鍵に
- 成果:監視体制の一元化がもたらす3つの効果
- 導入のポイント:まずは"全体を見える化"することから
- まとめ:監視体制の一元化は、全社IT戦略の起点となる
1. はじめに
AWS環境を活用する企業が増える一方で、意外と見落とされがちなのが「監視体制の分散化」によるリスクです。部門ごと、あるいは複数の外部ベンダーごとに異なるルールやツールで監視を行っていると、やがて全体像が把握できなくなり、「問題が起きても誰が何をすべきかわからない」状況に陥るケースが多く見受けられます。
特に、各ベンダーが独自ルールでアラートを発出し、それぞれが最終判断を運用管理者側に求めてくると、現場は判断に追われ、優先順位もつけられず対応が滞ってしまうといった声も少なくありません。
本記事では、弊社が支援してきた多くの企業で共通して見られた課題と、その解決アプローチについてご紹介します。
2. よくある課題:分断された監視が生む見えないリスク
複数のベンダーや部門が関わるAWS運用において、以下のような問題がよく発生します。
2-1.アカウントやツールの乱立による監視の分断
- 複数の外部ベンダーがそれぞれのAWSアカウントやプロジェクトを担当している場合、監視ツールや設定がバラバラになりがちです。その結果、AWSからのセキュリティ通知や運用アラートがベンダーごとに管理され、運用管理者側に届くタイミングや情報の質が異なるため、全体像の把握が困難になります。
- さらに、通知のフローも統一されていない場合には、アラート対応が属人的かつ遅延しやすい状況になりやすいです。
- ベンダーがそれぞれ異なる基準でアラートを出す中、最終的な判断を運用管理者側に委ねられるケースが急増しています。「これは緊急対応すべきか?」「他と重複していないか?」といった判断を都度迫られ、現場が混乱し、対応が後手に回る事例が多く報告されています。
- アラートをスルーしてしまうリスクだけでなく、更新されていない設定や不要なリソースの放置などにより、セキュリティホールやコストの無駄が発生します。監視が分散していることで問題の早期発見が難しくなり、システム全体の品質や可用性に悪影響が及ぶ可能性も高まります。
- それに伴い、コスト増加やセキュリティホールのリスクが高まっているにもかかわらず、全体最適の視点から対応できないという状況が発生します。
- 部門横断のAWS運用ルールの標準化 → 部門ごとのばらつきをなくし、組織全体で統一されたガバナンスを実現。
- マルチクラウド環境への対応強化 → GCPやAzureを含む異種クラウドにも対応可能な共通監視基盤を構築。
- セキュリティ・運用成熟度の全社的な向上 → 運用標準の定着により、組織全体のITレジリエンスを高める。
2-2.アラートが多すぎて"判断"ができない
2-3.コスト増加・セキュリティリスクの見落とし
3. 解決アプローチ:監視体制の一元化が"判断力"を取り戻す鍵に
こうした状況を踏まえ、弊社では多くのお客様に以下のようなアプローチをご提案しています。ポイントは、技術だけでなく運用フローと体制そのものを整理・最適化することです。
3-1. AWS Organizationsでアカウント統合・統制を実現
まずは、複数アカウントで構成されたAWS環境を、「AWS Organizations」機能を用いて一つの管理体制に統合します。これにより、各アカウントのリソースや設定、ポリシーを中央から把握・管理できるようになり、複数ベンダーが関与していても全体像を失わない環境が整います。
3-2.AWS標準ツールを活用し、可視性の高い監視基盤を構築
特別な監視ツールに頼らず、CloudWatch、AWS Config、Security HubといったAWSのベストプラクティスに沿った標準機能を活用します。これにより、設定ミスやリソース状態の変化も可視化され、セキュリティイベントや運用異常を自動的に検出できるようになります。
3-3. SRE的視点による横断的な監視・対応ルールの整備
弊社のSREチームが、アラート発生時の一次判断や優先度の整理を担い、運用管理者が最終判断に追われない体制を構築。各ベンダーとの技術的なルール調整も弊社が調整役を担い、運用の共通ルール策定と、進捗管理をサポートします。
4. 成果:監視体制の一元化がもたらす3つの効果
監視体制の一元化によって、多くの企業様が次のような成果を得られています。
4-1.初動対応のスピードアップ
これまでアラートごとに対応の要否を検討する必要がありましたが、一次判断をSREチームが担うことで、迷わず正確な初動対応が可能になりました。意思決定の遅れや対応の放置といったリスクが減少しています。
4-2.運用負荷の軽減と属人化の解消
監視ルールや対応手順が可視化・標準化されたことで、特定の担当者に依存しない運用体制を実現。体制変更やベンダー入れ替えにも柔軟に対応できるようになりました。
4-3.コストとリスクの可視化による運用最適化
統一されたモニタリングによって、放置されがちなリソースやリスクの見落としを防止。クラウド運用における不要コストを明確化し、運用の最適化にもつながっています。
5. 導入のポイント:まずは"全体を見える化"することから
監視体制の一元化を進めるには、いきなりすべてを変える必要はありません。重要なのは、現状を正しく把握し、段階的に改善を図ることです。
5-1.現状の課題と関係者の役割を整理
まずは現在のAWS環境における監視範囲・ツール・通知ルート・判断フローを可視化し、関係者(部門・ベンダー)の役割を整理します。ここで、どこに属人化や判断遅れの要因があるかが明らかになります。
5-2.合意形成と推進体制の確立
監視体制の一元化は、単に技術的な改善ではなく、組織横断の取り組みです。「なぜやるのか」「何が得られるのか」を共有し、経営層やステークホルダーを巻き込んで合意形成を行うことが、成功の土台になります。
5-3.AWSのベストプラクティスに基づく段階的な導入
最初から完璧を目指すのではなく、Organizationsによる統合やCloudWatchの導入など、スモールスタートで始めるのが現実的です。標準機能をベースにすることで、保守性・拡張性も担保されます。
6. まとめ:監視体制の一元化は、全社IT戦略の起点となる
個別最適な監視体制は、短期的には柔軟性があるように見えても、ビジネスが拡大するにつれて「情報が見えない」「判断できない」「対応が遅れる」といったリスクを招きやすくなります。その結果、セキュリティインシデントやシステム障害といった経営リスクに直結する重大な問題が顕在化する可能性もあります。
だからこそ、監視体制の一元化は単なるIT運用の改善ではなく、全社レベルの成長基盤を整えるための「攻めのIT施策」です。
監視体制を統合することで、単なる監視精度の向上にとどまらず、以下のような将来的な全社IT戦略への展開も視野に入れることができます。
このように、監視体制の一元化は「部分最適」を乗り越え、「全体最適」への扉を開く重要な一手です。
アクセルユニバースでは、現状の監視体制の診断から、設計、導入、ベンダー調整、ルール統一、そして実運用の改善までを一貫してご支援しています。AWSに限らず、複数クラウドや複雑なベンダー構成に対応した最適な監視体制を構築したい企業様は、ぜひ一度ご相談ください。